代表者挨拶

1. 会社設立

私たち株式会社ヴィジブルインフォメーションセンター(V.I.C.)は昭和57年に設立しました。初期の会社経営に精励したのは、当時の日本原子力研究所を離れ、起業の道を選択した龍福廣です。「原子力の安全利用に資する」 という目的意識を持って作業に打ち込むことを龍福廣は社内で標榜していました。また、 「海外の研究所ではガラス細工で実験器具をしつらえる技術者なんかをとても大事にしているものです」 と話して、社員の結束を高めようとする一面を持っていました。会社設立初期に龍福廣の指導を受けた社員は現在では二名だけとなっています。とはいえ、三十年以上会社が存続してきた礎は、科学的に考えることをいつも求め、自主的に行動することを進めてくれた会社設立時の気風にあると考えています。

2. ソフトウェアを駆使して

V.I.C.は科学計算にウェイトを置くソフトウェアカンパニーです。計算機環境の変遷や開発環境の高度化に対応してきているので、処理する技術や方法も大きく変わってきています。それでも、これまで育て上げ蓄積したテーマがいくつかあって定常的にこの分野の新たな問題に取り組む機会を与えていただいています。以下にV.I.C.が継続して取り組んでいるテーマを示します。

1)遮へい・放射線輸送計算

2)環境負荷物質挙動解析計算

3)実験支援システムの開発

それぞれのテーマについてこれまで取り組んだ作業の中には、印象深く会社の財産となっている作業がありますので、いくつかを紹介します。

遮へい・放射線輸送計算では、モンテカルロ法による放射線輸送計算の技術を社内に根付かせるために取り組ませていただいた国立水戸病院と筑波大学付属病院のライナック施設の迷路内における放射線分布計算をよく記憶しています。実際に現場を見ておくことが解析計算をするためには重要ですというアドバイスを受けて、現場で測定をされる研究者に同行したからです。ソフトウェアによる作業は机上での数字合わせに陥りやすい危うさをひそませていますが、解析結果を実測データと比較検討することで信頼性を高めてゆく作業姿勢はしっかりとV.I.C.へ浸透させておきたいと考えています。JCO臨界事故の解析に取り組んだことも貴重な経験となっています。第一加工施設棟内部のフィルムバッチに係る深層透過計算や空気中含有水分量の感度解析等々、視点を変えた計算を積み重ねて報告書を提出しました。当時採用した計算モデル図は核燃料サイクル機構の解析グループの論稿(原子力学会誌[43(1) (2001)])に掲載されています。

環境負荷物質挙動解析計算では、極低レベル廃棄物の埋設処分に係る安全評価や低レベル放射性廃棄物浅地中処分の総合安全評価に協力する機会がありました。埋設処分に係る安全評価には会社設立当初から取り組んできました。計算コードはDOSWASTEと称されていて、開発されたけれど実際は利用されずに忘れられてゆく計算コードの多い中で、二十数年、使用されています。ワードプロセッサーが専用マシンで高価だったので、報告書を手書きしていた頃からですので、開発に参画したV.I.C.の社歴と共にある計算コードのひとつといえます。浅地中処分の総合安全評価では、計算モデル構築のリアリティを高めるために六ヶ所村へ現地調査に行きました。現在も、再処理施設に関連する受託作業の打合せで六ヶ所村を訪問する機会があり、インフラが整備されていく速さに感嘆したりしています。あの当時の風景はといえば、だだっぴろい畑土が連なっているばかりでした。その一角で農民が遺跡の発掘調査をしていたり、地盤調査のボーリングの杭がぽつねんと立っていたりといった風情だったのです。

実験支援システムの開発では、リクエストに応えて様々なシステムの開発に挑んできています。現在では、東海村で稼動している大強度陽子加速器施設J-PARCに関連するソフトウェア開発にも参画しています。そのひとつが単結晶中性子回折計(iBIX、SENJU)で収集された実験データ解析処理システムSTARGazerの開発となります。V.I.C.には多種多様な人材が集まってきていますが、中性子回折を専門とする人材がいる訳ではありません。作業のバックグラウンドを理解しようとしてこそ、プロダクトの質も向上するということを、V.I.C.ではモットーとしていて一人ひとりの社員に学ぶ姿勢を持ち続けることを求めています。大強度陽子加速器施設J-PARCの計画が動き始めた時点で、一社員を茨城大学の社会人ドクターコースへ送り出し、バックグラウンドの理解を社内に汲みいれる準備をしました。また、測定技術や統計処理に秀でている人材、理論物理を専門としている人材、もちろん自らソフトウェア開発を進めていける人材を積極的に迎え入れて来ました。今では、開発担当研究者の方々のアドバイスを受けながら、V.I.C.担当チームも精一杯、完成版にたどりつく努力を重ねています。先に紹介したDOSWASTEと同じようにSTARGazerが、研究者の方々に継続して利用されてゆく計算コードとなっていくことを期待しています。V.I.C.は、傍観者から見ると無謀と見なせる勢いで新しい分野に挑んでいくこともあります。茨城県環境放射線監視センターで運用されている、携帯電話を利用した環境モニタリングデータ連続監視システムも、あるいはそんな一例となるかもしれません。環境監視の現場から届いた『可搬性と瞬時異常値の検出』というニーズに応えるために、携帯電話をターゲットとして携帯電話のメモリー内で稼動するJavaプログラムの開発に挑んで創りあげたシステムとなっています。

3. 先を見据えて

V.I.C.は、今年で会社設立三十一年を迎えることとなります。とはいえ、会社もある意味、生き物なのでいつ何時どんなことが起こるか事前に把握できるわけではないので、リスク管理の重要性をしっかりと肝に銘じていきたいと考えています。四月には、つくば事業所の移設、IQBRC事業所を開設ということとなり、人材も拡充できたので活躍の場を増やしていく方針でいます。厳しい経済状況ですけれど、プロダクトの高品質こそが会社を支えてくれるものと念じて作業に傾注する組織であり続けることでしょう。

研究の場に近い地点で働けるということで、多くの研究者に導かれてここまでたどりついたと実感しています。作業に結びつかなくても行き詰った折に話を聞いてくださり、指針を示してくださる研究者の知己に恵まれたことがV.I.C.の財産となっています。